コンセプトは「モノづくりの魂」
「刃の道」と書いて「HADO」。茶道、華道、柔道、武道……所作や道具、周囲の空間にまで意識を向けながら最高至極の域を目指す「道」という、日本ならではの感性を包丁に落とし込んだブランドです。単によく切れるだけでなく、すべての人に“持つ感動”を与える、魂のこもった包丁づくりをしています。
日本刀のようなコントラストが美しい刃は、あえて全面を磨ききらずに槌目を残す無骨な仕様に。一方で、背やアゴ(刃の一番ハンドル寄りの角の部分)といった手にあたる部分は丁寧に角をとっているので、優しい握り心地。暖かみのあるウォルナットの柄は品のよいデザインで、使うほどに味がでるので愛着も湧くはずです。
今回は、135mmの小文化、180mmの文化、210mmの切付牛刀の3種類をラインナップしています。小文化は、小さすぎも大きすぎもしない絶妙なサイズ感で、一人暮らしの方や、ささっと軽食を作りたい時に重宝しそう。文化は料理好きの方やファミリー層に、切付牛刀はプロの方にもおすすめです。
パッケージには、パリを拠点に世界各国で活躍するアーティスト、フィリップ・ワイズベッカーによるドローイングを採用。従来の和包丁の厳かなイメージとは異なるHADOならではの世界観を表現しています。
隅々まで気が配られた、愛したい道具。
1) 切れ味が長く続く材質(SPG2という鋼材)を使用しています。サビに強く、プロのみならず家庭でも気兼ねなく使っていただけます。3種類(小文化・文化・切付牛刀)とも万能包丁ですが、お客様の調理スタイルやご自宅のまな板の大きさにあわせて、最適なサイズを選んでいただけたらと思います。
2)職人が一本一本丁寧に研ぎ上げています。薄く研ぐことでスムーズに食材に切り込むことができ、握った時に指が当たる部分(アゴ、ムネ)を鏡面のように磨き上げ、指あたりを良くし、また見た目も良くしています。刃は丁寧に薄く研ぎ上げているので、切れ味が落ちた時も研ぎ直しが早く、メンテナンス性にも優れます。
3)パッケージにこだわっています。開封する際のワクワク感が感じられる仕様になっています。フィリップ・ワイズベッカー氏が描いた包丁のイラストや、薄い和紙に包まれ、紙サヤにはメッセージが入っています。
株式会社福井
ものづくりの街で120年あまり続く老舗問屋
堺の打刃物の歴史は古く、古墳時代(5世紀ころ)にはすでに穴を掘る道具がこの地でつくられていたと伝わっています。戦国時代(15世期末?16世紀末)には鉄砲の産地として栄え、江戸時代(17世紀初頭)にはタバコの葉を刻むタバコ包丁をつくるようになり、これが堺の包丁の起源といわれています。
そんな“ものづくり”のDNAが受け継がれた地で、1912年(明治45年)に創業したのが株式会社福井です。以来、堺打刃物の製造・卸売を中心に、農園芸・ガーデニング用品や工具・DIY用品・アウトドア用品の取り扱いを行ってきました。
創業109年目となる2021年には、初めての自社製造ブランド「HADO(刃道)」が誕生。「モノづくりの魂」をコンセプトに老舗が仕掛ける新たなプロジェクトは、業界内でも注目を集めています。
職人になりたい男と会長の積年の想い
「HADO(刃道)」のメンバーは、職人の丸山忠孝さん、野村直弘さん、津田崇史さん。営業企画の市川善夫さん、営業の柏木舞さん、そして6代目社長の福井基成さんの、なんと6名。まさに少数精鋭です。
プロジェクト誕生のきっかけをつくったのは、丸山さん。
「2015年、当時僕は営業と倉庫の担当だったのですが、つくる側に興味が湧いて、社長と会長に『会社を辞めて職人になりたい』と切り出したんです。すると会長が『3年くらい外で修行をして帰ってこい。修行の間の給料は出す』と、言ってくれて。驚きましたが嬉しかったですね。こんなチャンスはないと、この提案にのることにしたんです」(丸山さん)
実は会長の心の中には長年、社内で包丁を内製したいという想いがあったそう。職人になりたい丸山さんと、会長の積年の想いが重なったのです。丸山さんの修行が3年目を迎えた2019年春、満を持して工房がオープンしました。
個性あふれる若い職人たちが切磋琢磨
2020年には、丸山さんの前職の同僚であり友人の野村さんも合流。
「堺の鍛造包丁はよくも悪くもクセが強く、思い通りに仕上げるのが難しいのですが、それがまたおもしろいんです。単に切れ味がよいだけではなく、持つ人の気分を上げるよう見た目にもこだわっているので、プロの方だけでなく一般の家庭で普段づかいしていただきたいですね」(野村さん)
2022年に入社した津田さんは25歳。若い職人たちがアイデアを出し合い、和気あいあいと作業をする様子も同社ならではの風景です。
「この世界に入って2年ほどですが、完成まで任せてもらえていて、やりがいを感じています。機械化が進む時代だからこそ手作業のよさを残したものづくりは尊いですよね。手にしっくり馴染むよう細かなところまで工夫を凝らしているので、ぜひ実際に触れて違いを感じてみてください」(津田さん)
柔らかくて優しい、日常になじむ包丁づくり
若さがあふれる工房の穏やかな雰囲気は、商品にも表れているようです。
「かつての和包丁がもっていた厳かなイメージとは少し違う、柔らかくて優しくて、いろいろな人の生活になじむデザインがHADOの特徴の一つです。伝統に学びながらも縛られることなく、新しいこともどんどん取り入れていくしなやかさを大切にしたいですね」(柏木さん)
HADOのロゴやイラストには、フランスのアーティスト、フィリップ・ワイズベッカー氏を起用。これまでの和包丁と一線を画すブランディングとマーケティングで、丁寧なものづくりの魅力を海外にも発信しています。今ではなんと、売上の9割以上が海外なのだとか。
「ブランドを立ち上げた時はすでに国内の需要は飽和状態だったので、海外販路の開拓に力を入れました。その甲斐あって、フランスやイギリス、アメリカ、カナダなどを中心に、世界20カ国以上の包丁専門店で取り扱っていただいています」(市川さん)
福井社長も、若者たちが切磋琢磨しながら腕を磨く様子を見守りながら、彼らの今後の活躍に期待を寄せます。
「長年卸売をメインにしてきた当社で、自社ブランドが成長しているのはとても心強いこと。工房は当社のコアであり、拠り所となっています。今は職人がリスペクトされる時代なので、これからさらに職人を迎え、当社にしかできないものづくりを目指していきたいです」(福井さん)
100年あまり続く老舗の新たな挑戦は、まだ始まったばかり。若い感性による柔軟なものづくりの姿勢は、堺の刃物業界に新鮮な風を吹き込んでいきそうです。
取材・文/土屋朋代 撮影/佐藤裕