箒で見直す暮らしの基準。山本勝之助商店、棕櫚の３玉荒神箒。

和歌山県海南市にある荒物屋さん。明治13年創業の山本勝之助商店が作り出す棕櫚の箒をご紹介します。

「棕櫚の３玉荒神箒」

気になりませんか。「3玉」と「荒神」というネーミング。
３玉とは、棕櫚の玉の数。荒神とは、竈の神様のことです。かつて、竈まわりを掃除するために使われていた箒のことを“荒神箒”と呼んでおり、現在では小箒のことを総称して荒神箒と呼んでいます。
つまり、神様の名前がついた箒ということです。
棕櫚は、ヤシ科の植物です。幹に巻き付いている繊維は、耐水性、耐腐食性に優れ、伸縮性に富んでいる自然素材。古くから縄や箒つくりなどに利用されてきました。
そんな棕櫚を１玉１玉丁寧に束ね、銅線でまとめ上げて作られる“3玉荒神箒”。銅の輝きが美しいスリムな小箒です。皮巻き部分は、棕櫚の自然な網目をそのままに仕上げられています。全て熟練の職人さんのなせる技です。

荒神箒と暮らし

一見、固そうにみえる棕櫚の箒ですが、穂先は想像よりも柔らかくしなやか。大事な家具や床を、傷つけることなく掃除することができます。掃除機のように電気も使わないので省エネ。大きな音も出さないので、いつでも、思い立ったときに掃除することが出来ます。動物と一緒に暮らしている場合でも、ストレスを与えることなく毛やゴミを集めることが出来る優れものです。掃き出すというより、からめとるような感覚に近いので、掃除中もあまりほこりが舞いません。

荒神箒は家具回りや狭い場所で大活躍

窓のサッシや、ガラス戸の桟など、ほこりが溜まりやすい場所には打ってつけ。
穂先がしっかりと隙間に入って、ゴミやほこりを掻き出してくれます。

籠やザルのお手入れにも最適です。
普段は収納として使っている籠や柳行李。気づけば網目にほこりが溜まってしまいます。
掃除機を使っても、取り除くのが難しいほこりも、荒神箒を使えばストレスなく掻き出してくれるので、お掃除の時間も短縮されます。棕櫚の繊維には天然の油分が含まれているため、柳行李にも自然なツヤが。

テーブルの上も、拭き上げる前にササっと掃いて食べかすなどの荒いゴミを取り除いたり、子どもが使った後に残る消しゴムのカスを集めたりと便利です。小箒は小回りが利くのですぐに手の届く場所に吊るしておくのがオススメ。

関西では棕櫚箒・関東では和箒

天然素材でつくられる箒。一昔前は、棕櫚の箒は西日本を中心に。和箒は東日本を中心に出回っていました。
棕櫚は和歌山県の特産植物です。現在では国産の棕櫚を原料にすることは難しくなっていますが、かつては国産の棕櫚を使った日用品が和歌山を中心に多く作られていました。そのため、関西圏では棕櫚の箒が親しまれていたのです。関東では、箒草の栽培が盛んだったため、和箒が多く出回っていたという訳です。

棕櫚箒を使う前に

天然の素材でできている棕櫚の箒は、使い始めに棕櫚の細かい繊維が落ちてきます。使っていけば、落ち着いてきますので、始めは外や、新聞のうえなどで払い落としてから使いましょう。
使い始めは、繊維が入り込みにくいフローリングなどの掃除がオススメです。

棕櫚の箒は吊るしましょう

棕櫚の繊維は、耐久性がありますが、穂先を下にして立てかけておく保管は避けましょう。
穂先が曲がって、癖が付いてしまい、掃きにくくなります。柄の先端に紐が取り付けられていますので、吊るして保管をしましょう。

棕櫚のお手入れ

棕櫚の箒を長く愛用するためには、お手入れはかかせません。天然の素材である棕櫚の特性を理解して、大事に使い続けましょう。

• 乾燥には注意

荒神箒の柄は竹製です。自然素材のため、あまりに乾燥すると割れてしまうことがあります。エアコン近くでの保管は控えて、乾燥が気になる季節は霧吹きで箒全体に水を吹きかけてあげると良いでしょう。

• もしも穂先が曲がってしまったら

曲がった部分を水で濡らして湿らせます。次に、輪ゴムや紐などで穂先全体を巻いて固定します。このとき穂先の曲がりを整えるような感じで巻きましょう。あとは、自然乾燥かドライヤーで水分を飛ばして形を整えていきます。

• 傷んだ穂先の繕い方

長く愛用すればするほど、どうしても避けられないのが穂先の傷みです。傷みが酷くなり、掃きにくくなったら傷んだ部分をカットすることで、また使うことができます。どんなに大事に使っていても、箒を新品のような状態で維持することは不可能。道具を切ることは、少し勇気がいることですが、むしろ、穂先の傷みはたくさん使い込んだ証だと思って、思い切って切り落としましょう。切った後は、皮巻き部分をほぐしてすいていき、新しい穂先を作って繕いは完了です。

掃除道具を手入れするということ

棕櫚の箒は大事に手入れして使えば、10年、２０年と使い続けることができます。
日用品の中でも、掃除道具は傷みが早く、当然、道具自体も汚れていくため、使い捨てできるもの、買い替えが容易な安価なものが物選びのひとつの基準になることも少なくありません。
使いづらくなったら買い替え、汚れが気になったら、そのままポイ。近頃はそういった掃除の仕方が当たり前になってきている気がします。
荒神箒は、長い年月をかけて経年変化を楽しみながら愛用していくことができる箒です。
最初は家具や棚の上を、すこし傷んできたら次は廊下や階段を。長いこと愛用して、でもあともう少し頑張れそう！となったら、靴箱や車内の足元の掃除に。そうして、時間をかけて暮らしを共にしていくことができるのです。
手仕事でつくられる棕櫚の荒神箒。天然素材の道具を使うことで、暮らしの見直しをしてみてはいかがでしょうか。自分が選び使う道具は、何からできているのか、どのくらい使い続けることができるのか、ゴミとして処分したその先はどうなるのか。もの選びの基準が変わってくると思います。
ひとつの道具から、暮らしを豊かにするきっかけがもらえるはずです。

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