暮らしに寄り添うモダンな小笠原陸兆の南部鉄器は、クラフトデザインの草分け的存在です
美しい川が流れ、自然に囲まれた岩手県奥州市水沢地区。
平安後期から続く鋳物の街として知られたこの地域で生まれた鉄器は「南部鉄器」と呼ばれ、
人々の暮らしを支える生活用品として長く愛され続けています。
長年愛される理由は時代を問わないデザインにあり
茶の湯釜がわりを作ったこときっかけで、「冷めにくい」「味がまろやかに仕上がる」という実用性が高く評価され、南部鉄器は一般に広がりました。
小笠原陸兆(りくちょう)の南部鉄器は、古典的なの南部鉄瓶の技法を受け継ぐ一方、近代的なモダンデザインの製作もこなす、日本におけるクラフトデザインの草分けと言われる存在です。
鋳物師の2代目として生まれ、60年以上にわたり南部鉄器にその生涯をささげた小笠原陸兆氏は、シンプルで使いやすい普遍的な形にこだわり続けました。
IHも使える、工房を代表する「フライパン」や「フィッシュパン」などの多くの作品は、陸兆氏が亡くなられた後も、デザインを変えることなく受け継がれ、現在に至っています。
生前の陸兆氏は、「芸術作品ではなく、日々の生活で使ってもらえるものをつくりたい」と
話していたそうです。その言葉通り、小笠原陸兆の作品は一般的な南部鉄器と比べると、手頃な価格帯であることに驚かされます。
こうした価格を実現させたのは「生型」という製法です。
山砂を水分で湿らせて型をつくる「生型」は、一般的な鉄瓶の製法である「焼方」に比べて低コストで製作することが可能です。
「特別なものではなく、日常使いできる南部鉄器を…」。
小笠原陸兆の鉄器は、デザイン面だけでなく、価格面においても日々の暮らしの中に溶け込み、鉄器をより身近なものであると感じさせてくれる不思議な魅力を放ちます。
新しさと懐かしさ、そして日本古来の“粋”が感じられるモダンなデザイン。
生活シーンを想像してつくられた道具たちは、日々の暮らしを豊かに楽しむ方法を教えてくれます。